小児科で働いている薬剤師の「あと」と申します。
セミナーの内容を忘れないように今回記事にしました。
なるべく専門用語を使わないようにしていますが、一部そのままにしています。
前提
基礎的な話はこちらが参考になると思いますのでご覧ください「おねしょ卒業プロジェクト」
一部抜粋してお話します。
「おねしょ」と「夜尿症」の違いは年齢で区別しているだけです。5歳以降からは「おねしょ」という名前から具体的な病名に変わり、月一回以上のお漏らしが3か月以上続くと「夜尿症」と呼ばれるようになります。
夜尿症の治療には生活指導と行動療法、薬物療法、アラーム療法があります。
アラーム療法というのは、おねしょをすると下着や専用パッドに装着したセンサーが感知して、アラームが鳴ったり、バイブレーションすることで起こしてくれる機械を使う治療法です。
続けることで膀胱容量が増え、尿意で起きることなく朝までもつようになるそうです。
ここから下がセミナーの内容です
治療は何歳から始めたらいい?
夜尿のある方は5歳で16%、9歳で3%、19歳で2%くらいいます。
夜尿だけの症状を持っている場合、小学生3年生から積極的に治療をオススメしているそうです。
昼間の尿失禁がある場合は小学一年生から。便失禁がある場合は入学前に検討してはどうかと先生は話されていました。
昼間尿失禁が健康関連QOLを下げる
トルコの報告で110例を対象としたレポートです。
夜尿+昼間尿失禁がある方の健康関連QOLは60点。
夜間のみおねしょがある方の健康関連QOLは69点となったそうです。
やはり昼間も失禁してしまうとQOLは下がる傾向にあるようです。
※「QOL」=Quality of life 生活の質の事です
夜尿症の生活指導はどれくらい効いている?
ポーランドからの報告。49例の夜尿しかない人を対象としたレポートです。
生活指導のみで経過観察したらどうなるかをみた症例で
- 寝る時間前には水分取らない
- 夜に牛乳のまない
- 寝る前に排尿しましょう
- 正しい姿勢で排尿しよう
- 定期的に排尿しよう
という治療をしました。
ちなみに牛乳や乳製品を摂取するとホルモンの関係で夜間多尿になりやすいと言われているそうです。
話を戻します。治療を始める前は2週間で9回くらいおねしょしていたのが、90日後二週間で6回くらいになったそうです。
夜尿改善消失の割合は、1ヶ月で2%→2ヶ月で16%→3ヵ月で18%となったそうです。これだけ聞くとよく効いている気がしますね
ただ、2022年スウェーデンの報告では夜尿しかない人60例の方に
生活指導のみ、アラーム療法、治療なしの3つに分けて、その後7~8週目に2週間の夜尿の頻度をみたところ、アラーム療法はかなり効果的だったそうですが、生活指導のみと治療無しとだと特に変化がなかったそうです。
つまり生活指導のみと治療なしは改善に差はなかったそうです。
生活指導を夜尿の第一選択にするのは推奨するには十分な根拠はないと結論づけたそうです。
夜尿症に生活指導はいらないのか?
2021トルコからの報告。60例の夜尿しかない方を対象としたレポートです。
半分の30例には教育用冊子を用いたウロセラピーを、残り半分には一般的に情報提供だけをして、一か月後のQOL比較しました。
ちなみに教育用冊子にはおしっこはどうやって作られるか、今後どのように治療していくかが書いているそうです。
結果、教育用冊子を用いた人たちの方がQOLが高いことが分かりました。上の章では生活指導をしても改善はしなかったようですが、本人のQOLは高く維持されるため生活指導はした方が良いと思われます。
※ウロセラピー…この言葉は恐らく、「ウロ=泌尿器科」と「セラピー=治療や療法」を合わせた造語だと思われます。
定時排尿指導の必要性
定時排尿指導とは、決まった時間になったら尿意に関係なくトイレに行くように促す指導のことです。
これは昼間の失禁にはマストの療法だそうです。
その効果は昼間の尿失禁で1年間排尿指導をしたほうが56%治り、自然治癒のままだと15%しか治りませんでした。
昼間尿失禁に定時排尿指導がなぜ効くのか?
1~4歳膀胱知覚の認識をするそうです。おしっこに誘うとおしっこできるようになるみたいです。
ここに異常があると、膀胱拡張の認識が不十分となります。この膀胱知覚の認識が不十分な人に定時排尿指導がよく効くそうです。詳しく話していきます。
大人は尿意を、今どれくらいおしっこが溜まっているのかが経験則でわかりますよね?
例えば、「10段階の3くらいしか尿意はないけど、これから高速道路で長距離ドライブするからトイレに行っておこう」と思ったり、
「10段階の8まで来てるけど後お皿3枚洗ったら行こうかな」
という、今の状況と未来を想像することが当たり前にできます。
ただおしっこ漏れてしまう方は、本人の認識は0か10しかありません。知覚はしているけど、認識していないという事です。
なので10段階の8くらいになっていて、もじもじしていても、親がが「トイレ行っておいで」と言っても本人は「おしっこでない」と言います。
これは反抗していたり、面倒くさいと思っているわけではありません。本当にそう思っています。
(難しく言うと小児の大脳皮質(前頭葉)レベルにおける通常尿意の認識能力の低下あるいは未成熟による
→根拠として、ADHDの患者時では前頭葉活性の低下が認められ、尿失禁の頻度が定形発達児より高い)
なので2~3時間ごとの定時排尿を促すことで改善がみられるそうです。
本人は最初「トイレ行ってもおしっこ出ない」と必ず言います。
いざ行ってみるとおしっこがいっぱい出るのを見て「あぁ、今までこの気持ちを0と思っていたけど8だったのか」と分かるようになります。
暫くすると、親が「おしっこ行きなさい」という前に、自分で気づいてトイレに行くようになるそうです。
この場合、コツがあり「何時間たったらきっちり声かける」だと親も子も難しいので、「何か食べる前、おうちに帰った時、寝る前に”おしっこのじかんです”」と声をかけてあげる。
この時「おしっこないの?」と声かけても本人はないと認識しているのでトイレに行きません。
おしっこのあるなしは議論せず、”おしっこのじかんです”とだけ伝える。
便秘治療の効果
すごい便秘は夜尿には関係するそうですが、そこまでの便秘だと治療しても改善しないそうです。
ただ、昼間の失禁には便秘治療がよく効く場合があるそう。
66例の夜尿のみの方を対象としたレポートです。
このなかで便秘と診断した人で2週間毎日浣腸したらどうなったか
治療前が2週間で9.8回→便秘治療後9.3回
夜尿にはあんまり効かないのではないかと結論付けられました。
一応便塊排除後、一回排尿量は有意に増加したそうです。
夜尿症治療に便秘治療はいらない?
中国からの報告です。
便秘があると、デスモプレシン治療の成績が悪いと報告があったそうです。
夜尿の方で3か月デスモプレシンを使ったところ、夜尿消失が便秘ありだと7% 便秘なしだと93%となったそうです。
なので便秘の方は薬の効き目が悪くなるため便秘の治療は並行して行った方が良いと思われます。
※デスモプレシン(商品名ミニリンメルト)…水の再吸収を促進しておしっこを濃くして、おしっこの量を減らしてくれるお薬
毎日いいうんちしてる?
先生がこう問うと、本人と保護者の答えが一致するとは言えないそう。子供が「いいうんちでてる」と答えても、親がムッとした顔で見ていることがよくあるそうです。
また排便日誌と質問票の答えはあっていない事もあるそうで、本人が答えた内容と実際につけた日誌でも答えが違うそうなので排便日誌は重要だそうです。
ウンチが出たかどうかの日誌をつけながら、「一日うんちが出なければ夕食後に1分間トイレに座りましょう」と先生はお伝えしいるそうです。
先生は、正常便が週三回未満の場合は薬物治療(モビコールなど)を提案しているそうです。
※モビコール…便秘改善の薬。
夜尿をする前に起こしておしっこさせたほうがいい?
どちらがいいか、決着はついていないそうです。
小児の先生の回答で多いのは
「夜間の睡眠を阻害することでナトリウム,尿素窒素、プロスタグランジンなどの代謝や血圧調整機構などの生理的日内変動に影響が及ぶ」という事と
根本的な解決にはなっていないので起こさないほうがいいと回答した方が多いそうです。
ただし短期の宿泊行事(就学旅行やキャンプ)など限定的な場合は夜間に起こすことも検討してもいいとの事です
おむつしているから夜尿がなおらない?
2024年ヨーロッパから。105例の夜尿のみの方を対象としたレポートです。
連日夜尿あり、かつ最低半年はおむつ着用歴ありの方に
全員4週間おむつはいて、その後半分の方はおむつをとってもらう。
おむつを取ってもらった70人のうち9例で夜尿消失、5例で半分以下に減少。
おむつありのままの方だと35例のうち1例のみ尿意消失
この話はこれ以上ありませんでした。私の感想ですが、10%~20%程度治ってはいるものの推奨されるほどの効果はないのではないのかなと思いました。
アラーム療法ってどれくらいの期間やるの?
505例の方で、アラーム療法開始から「14日連続夜尿なし」になるまでの週数を見た結果
平均は10週。一番多いのは6週間でなくなる方が一番多いそうです。
なので先生は、最低6週間は継続するようにしているそうです
8週間アラーム療法をしたかたで、良くなる人はすぐ良くなるが、4週以内に夜尿が良くならなかった方はそれ以上続けても治療効果は低いとの結果がでました。
つまり効果が無い場合は漫然と続けず、別の治療に切り替える方が良さそうです。
ミニリンメルトを120μg→240μgに増量すると副作用が増える?
実験をした結果、薬の用量を増やしても副作用は増えないそうで
ミニリンメルト120μgと240μgの違いは、ミニリンメルトは容量の範囲内において容量依存的に作用時間が延長するという事。
つまり薬を飲んですぐの効果は同じで、120μgより240μgのほうが作用時間が長いという事です。
まとめ
・昼間尿失禁には排便治療と定時排尿指導”おしっこのじかんです”と声をかけてあげよう。
・夜尿症に漫然と生活指導のみを行わない。
・ミニリンメルトの効果が不十分の場合は240μgまで増量を検討する
・アラーム療法は6週間以上継続するが漫然とは行わない
以上がセミナーの方のまとめでした。
いつもミニリンメルトを患者さんにお渡しするだけで、背景の夜尿症をここまで詳しくは知らなかったのでいい勉強になりました。
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